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602/Life style

人生の師匠

イチゴさんに出会ったのは、高校生だった私がアルバイトしていた花屋さんだった。私はその頃、月・水の夕方と土日のシフトに入っていて、イチゴさんはお客さんの波が引いた閉店間際か日曜のお茶時、16時頃によくやってきた。その頃イチゴさんはまだデザイン事務所に勤めていて、事務所に生ける花やデザインの素材としての花を買いにきていた。独身で、うちの実家から目と鼻の先の一軒家に一人で住んでいた。
イチゴさんは母よりも年上だったが、どうにもこうにも年齢不詳感が拭えなかった。服装はオシャレで(コムデギャルソンとかY'sとかzuccaとかA/Tとかを着ていた)いつも違うメガネをかけており、素敵な靴を履き、フランス語を話すように言葉を発するとても魅力的な人だった。ほとんどのことは今もちっとも変わっていない。変わったことがあるとすれば、2度程引っ越しをしてデザイン事務所を辞めてフリーになったことくらいだ。
最初は店のご主人や奥さんが話しているのを遠くからそっと見ていた私だが、そのうちすっかりイチゴさんのファンになり、そのことは私のその後の人生を大きく変えるきっかけにもなった。
モノゴトに対する取り組み方(それは仕事や生活に必要な作業と呼ばれるあらゆる種類のこと)や、センスの磨き方、アンテナの張り巡らし方、身につけ消化していくという過程等々の重要性みたいなものを、イチゴさんはいつもそれとなく話し、『まぁ、そんな感じよ。フフ』(←フフは声に出していないが、ここでいつもひっそりと笑う)と言って帰っていった。それは今なお私に、これでもかと考えさせる、底の深い言葉ばかりだ。
私はいつもイチゴさんの言葉は湖に投げ込まれる小石のようだと思う。静かに投げ込まれ、かすかにちゃぽん、と響いた後ゆっくりと水面に波紋を描く。波紋はなめらかに滲み、時間とともに水面はもとに戻るが、投げ込まれた小石の分の水嵩だけは確かに増えている。私はいつまでもイチゴさんの背中を追いかけたいと思うし、時々振り返って小石を投げて欲しいと願っている。
毎年この時期にはイチゴさんからクリスマスカードが届く。私も自分のカードをつくる。私の成長がイチゴさんに伝わるように、今年の最高傑作と胸を張れるものを。そして、つくりながら今まで投げ込まれた数々の小石を取り出しては眺めるのだ。
by tmk_hys | 2004-12-03 12:45 | Days